
午前6時30分。
目覚ましの音で目を覚ました私、山田花子(仮名:29歳・独身・営業職)は、いつものように伸びをして、髪を触った。
「...え?」
何かがおかしい。
いや、明らかにおかしい。
髪の毛が、妙に広がっている。
慌てて跳び起き、洗面所の鏡を見た瞬間、私は絶叫した。
「ぎゃああああああああああ!!!」
鏡に映っていたのは、アインシュタインだった。
いや、違う。アインシュタインのコスプレをした私だった。
髪の毛が、重力を無視して、あらゆる方向に跳ねている。前髪は天を突き、サイドは横に広がり、後ろ髪は放射状に開いている。
まるで、頭に小型の爆弾でも仕掛けられたかのような有様だった。
「なんで...なんでこんなことに...」
鏡の前で呆然とする。
そして気づいた。昨日、お風呂上がりに髪を乾かしながら、パチパチと青白い光が走っていたことを。
静電気だ。
この悪魔のような現象が、私の髪を爆発させたのだ。
時刻は6時45分。
出勤まであと45分しかない。今日は午前9時から大事なクライアントとのミーティングがある。
こんな頭で行けるわけがない。
私は手を濡らし、髪を撫でつけた。
髪は一瞬だけ落ち着いたように見えた。
しかし3秒後、ゆっくりと、まるで意志を持っているかのように、再び立ち上がった。
「嘘でしょ...」
今度は水をたっぷりと手に取り、髪全体を濡らした。
髪が重みで下がる。
「よし!」
ドライヤーで乾かす。温風で丁寧に、下に向かって。
5分後。
髪は再び爆発した。
「なんなのあんた達!!!!」
髪に向かって叫ぶ。当然、返事はない。
ワックスを塗る。
オイルをつける。
スプレーをかける。
全て無駄だった。
私の髪は、あらゆる整髪料を拒絶し、自由を謳歌していた。
時刻は7時20分。
もう時間がない。
「そうだ、帽子!」
私はクローゼットから黒いニット帽を引っ張り出した。
去年の冬に買って、一度も使っていなかったやつだ。まさかこんな形で役立つとは。
ニット帽を深々とかぶる。
鏡を見る。
うん、完璧だ。爆発ヘアーは完全に隠れている。
少し不自然かもしれないけれど、爆発ヘアーよりは1000倍マシだ。
「これで行ける...!」
私は急いで着替え、メイクをし、家を飛び出した。
電車の中で、私はいくつかの視線を感じた。
(帽子、変かな...)
不安になる。
でも大丈夫。会社に着いたら、トイレで帽子を脱いで、髪を整えればいい。
きっと今頃は静電気も落ち着いているはずだ。
そう自分に言い聞かせながら、私は会社の最寄り駅に到着した。
会社に着いた私は、まずトイレに駆け込んだ。
個室に入り、恐る恐る帽子を脱ぐ。
鏡を見る。
「...」
アインシュタインが帰ってきた。
いや、むしろパワーアップしている。
帽子で押さえつけられていた反動で、より激しく爆発していた。
「あ、あはは...あははは...」
乾いた笑いが漏れる。
私は諦めて、帽子を再びかぶった。
そして意を決してオフィスフロアへ向かった。
フロアに入ると、既に何人かの同僚が出勤していた。
「おはようございまーす」
できるだけ自然に挨拶する。
「あれ、山田さん、帽子?」
隣の席の佐藤さんが不思議そうに聞いてくる。
「あ、ちょっと寒くて...ははは」
1月の終わり。暖房の効いたオフィスで帽子。
完全に不自然だ。
「そっか。でも室内では脱いだ方がいいんじゃない?」
佐藤さんは善意で言っているのだろう。
「あ、はい...そうですよね...」
私は曖昧に笑った。
そして8時55分。
地獄の扉が開いた。
「みなさーん、朝礼始めまーす」
総務の鬼課長、田所さんの声が響く。
全員がデスクから立ち上がり、フロア中央に集まる。
私も仕方なく席を立った。
朝礼が始まる。
「えー、では今日のスケジュール確認ですが...」
田所課長が話し始めた瞬間、私と目が合った。
「山田さん」
「は、はい!」
「なんで帽子かぶってるの?」
フロア全員の視線が私に集中する。
「あ、あの、その...寒くて...」
「室内では帽子取りなさい。マナーでしょ」
田所課長の声は有無を言わさぬ厳しさだった。
私の手が震える。
周りの同僚たちが、興味津々の顔で私を見ている。
もう逃げ場はない。
「は...はい...」
私は観念した。
そして、ゆっくりと、ニット帽に手をかけた。
時間よ、止まれ。
神様、今だけは奇跡を。
しかし神は応えなかった。
私は帽子を脱いだ。
「ボワッ!!!」
効果音が聞こえた気がした。
髪の毛が、解放された喜びを全身で表現するかのように、四方八方に広がった。
「...」
静寂。
5秒間の、永遠のような静寂。
そして。
「ぷっ」
誰かが吹き出した。
「あはははは!!!」
笑い声が広がる。
「す、すごい静電気!」
「アインシュタインじゃん!」
「写真撮っていい!?」
地獄だ。
ここは地獄だ。
「せ、静電気で...朝から髪が...」
私は震える声で説明した。
田所課長は呆れた顔で言った。
「...加湿器、買いなさい。以上、朝礼終わり」
午前のミーティングは、奇跡的に延期になった。
クライアントの都合で。
神様、ありがとう。
私はこの爆発ヘアーのまま、一日中社内で過ごした。
すれ違う人全員が二度見する。
何人かは笑いを堪えるのに必死だった。
そして昼休み。
私はトイレの個室に籠り、スマホを取り出した。
震える指で検索する。
「加湿器 即日配送」
検索結果がずらりと並ぶ。
私は片っ端からクリックした。
「ハイブリッド加湿器 今日届く 最短2時間」
「2時間...」
涙が出そうになった。
レビューを読む。
「静電気がなくなりました!」 「髪がまとまるようになりました!」 「人生が変わりました!」
そうだ。これだ。これが私に必要なものだ。
もっと早く、もっと早く買っておけば。
昨日買っておけば。
先週買っておけば。
去年の冬に買っておけば。
後悔の嵐が押し寄せる。
でも、今日から変わるんだ。
私は決意を込めて、購入ボタンを押した。
「ご注文ありがとうございました。本日18時までにお届けします」
「18時...!」
あと6時間。
6時間後には、新しい人生が始まる。
その日の夕方。
私は誰よりも早く会社を出た。
爆発ヘアーのまま電車に乗り、家に急いだ。
17時45分、家に到着。
そして18時ちょうど。
「ピンポーン」
来た!
私は玄関を開け、配達員さんから段ボールを受け取った。
「ありがとうございます!!!」
異様なテンションで叫ぶ。配達員さんは少し驚いていた。
箱を開ける。
そこには、白くて美しいハイブリッド加湿器が鎮座していた。
「ようこそ、我が家へ...」
私は加湿器を抱きしめた。
説明書を読み、水を入れ、コンセントを挿す。
スイッチオン。
「シュゴゴゴゴゴ...」
優しいミストが部屋に広がっていく。
湿度計の数字が、35%から、40%へ、45%へと上昇していく。
私は感動で涙が出そうになった。
翌朝。
目覚ましの音で目を覚ました私は、恐る恐る髪を触った。
「...!」
しっとりしている。
落ち着いている。
爆発していない。
私は鏡の前に走った。
そこには、普通の、ごく普通の、でも美しく見える私の髪があった。
「ありがとう...ありがとう加湿器...」
私は加湿器に向かって手を合わせた。
その日の朝礼。
田所課長は私を見て、小さく頷いた。
「山田、髪、落ち着いたな」
「はい。加湿器、買いました」
「そうか。よかった」
それだけだった。
でも、その言葉が嬉しかった。
人は、恥ずかしい思いをして初めて、本当に必要なものに気づく。
静電気は、髪を爆発させる。
爆発ヘアーは、人生を爆発させる。
でも、ハイブリッド加湿器は、人生を救う。
もし今、あなたの部屋が乾燥しているなら。
もし今、あなたの髪が少しでもパサついているなら。
明日のあなたを救うために、今日、加湿器を買おう。
後悔する前に。
爆発する前に。
〜完〜
この物語の70%は実話です。
残りの30%は、読者の皆様への優しさで誇張を抑えた部分です。
冬の乾燥を甘く見てはいけません。
静電気を甘く見てはいけません。
そして、朝の髪の状態を甘く見てはいけません。
あなたの部屋に加湿器はありますか?
ないなら、今すぐポチってください。
明日のあなたが、今日のあなたに感謝する日が来るでしょう。
追伸: その後、私は会社で「爆発ヘアーの人」として記憶されることになりました。 でも、今では笑い話です。 ほんとに。 ...ほんとに。